ピルの副作用・血栓症の原因と対処法

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ざっくりまとめると
血栓症は足の静脈にできること多く、ふくらはぎの痛みやむくみがよくみられる症状です。血栓が肺までいくと、息苦しさや胸の痛みといった症状があらわれます。
血栓症と思われる症状が出たら、ピルの服用はやめ、すぐに病院に行きましょう。
喫煙、肥満は血栓症のリスクを高めます。日常生活では、水分補給、適度な運動が大切です。

ピルの重大な副作用として血栓症があります。発現の頻度は高くありませんが、血栓ができると重い症状にも発展します。2014年には、ピルの副作用とみられる血栓症での死亡例がニュースにもなりました。

では、なぜピルを飲むと血栓症になりやすくなるのでしょうか。血栓症の症状や、どのくらいの確率で発症するのかなどを、順番に見ていきましょう。

血栓症ってどんな症状?

血栓症とは、血管の中に血の塊ができてしまう病気のことです。この血の塊を血栓といいます。血栓が肺や脳の血管に詰まってしまうと、最悪の場合、命にかかわります。とはいえ、すぐに死につながるわけではなく、正しい治療をすれば血栓は消失します。血栓症は早期に発見して治療することが大切です。

では、どんな症状が出ると血栓症が疑われるのでしょうか。

血栓は足の静脈にできることが多いため、ふくらはぎの痛みむくみがよくみられる症状です。その場合、片足だけに出ることがほとんどです。また、血栓が肺までいってしまうと、息苦しさ胸の痛みといった症状があらわれます。もし異変を感じた場合は、ピルの服用をやめて病院に行きましょう。

これ以外にも血栓症が疑われる症状はたくさんありますので、表にしてまとめてみました。

血栓症が疑われる代表的な症状
症状が出る部位 各部位の症状
お腹
  • 激しい痛み
  • 激しい痛み
  • 息苦しい
  • 押しつぶされるような痛み
  • 激しい痛み
  • 片頭痛
  • 見えにくい所がある
  • 視野が狭い
  • 舌のもつれ
  • 失神
  • けいれん
  • 意識障害
手足
  • ふくらはぎの痛み
  • むくみ
  • 赤くなっている
  • 太もも
  • 腕の腫れ
  • 手足のしびれ

もし血栓症になってしまったら…

血栓症は、専門の病院でしっかり治療すれば完治する症状です。血栓症の専門は血液内科や循環器科、血管外科などです。

病院での一般的な治療方法は、まず血液をサラサラにするためのヘパリンという薬を注射します。そのあと飲み薬のワルファリンを3~6か月飲みます。入院する場合もありますが、自宅治療も可能です。症状が重ければ手術をする場合もありますが、必ずというわけではではありません。どの程度の症状かによって治療法は変わります。

よく見られる症状は、ふくらはぎの痛みむくみです。血栓症が疑われる症状が出た場合は、ピルの服用をやめてすぐに病院に行くようにしてください。

どうしてピルを飲むと血栓症になりやすいの?

血栓とは、血管の中にできる血の塊のことでした。ピルを飲むことにより血液を固まらせる成分が体内に増え、血栓ができやすい下地ができてしまうのです。

OC や LEP を内服すると,凝固 因子であるフィブリノゲン,プロトロンビン,第 VII,VIII,X 因子が上昇する一方,凝固抑制 因子であるアンチトロンビン,プロテイン S,組織因子経路インヒビター(tissue factor pathway inhibitor:TFPI)が低下する.

なんだか難しい……

わかりやすくいうと、ピルを飲むと血液を固めるタンパク質である「フィブリノゲン」や「プロトロンビン」などの成分が増加します。反対に、血液を固めないようにするタンパク質である「アンチトロンビン」や「プロテインS」などの成分が減少します。

これにより、血液が固まりやすくなる作用が強く、固めないようにする作用が弱くなり、結果として血栓症になりやすくなるのです。

血栓症と女性ホルモンの関係

血液が固まりやすくなるのは、ピルに含まれるエストロゲン(卵胞ホルモン)の作用によるものです。したがって、エストロゲンの含まれている量が少ないピルほど、血栓症になりにくいと考えられています。

実際、エストロゲンが50㎍(マイクログラム)含まれる中用量ピルは、エストロゲン30㎍以下の低用量ピルに比べ、約2倍の血栓症リスクがあります。また、エストロゲンの量だけでなく種類も関係しているという説もあります。

ピルに含まれるもう1つのホルモン、プロゲステロン(黄体ホルモン)も血栓症に関係しています。プロゲステロンは、悪玉コレステロールの増加や、糖の代謝異常によって、動脈硬化や血管異常を引き起こしやすくします。

エストロゲンとプロゲステロンの作用が強く出てしまうと、血栓ができやすくなります。血液は常にバランスを保って流れていますが、ピルの服用でホルモンバランスが崩れることによって血栓症になりやすい下地ができてしまうのです。

ピルを服用すると、ホルモンバランスが崩れてしまい、血栓症ができやすい下地がどうしてもできてしまうんですね……。

喫煙、肥満は血栓症のリスクを高める!

血栓症にはさまざまな危険因子(疾患発生の危険性を増大させる可能性のある要因)があります。なかでも、喫煙や肥満は血栓症のリスクを上昇させます。

ピルを飲んでいる女性の中で、タバコを吸う人と吸わない人を比べると、タバコを吸う人は血栓症のリスクが2倍以上になります。

また、肥満との関係は、BMI数値が高くなればなるほど、血栓症のリスクが高くなります。

Parkinらが行ったcase control studyによると,BMI が20~24.9の女性へのOC投与のVTEリスクを1.0とした場合,20未満では0.4 (0.1~1.7)と差はな いが,25-29.9で2.4 (1.2~4.8),30.0以上で5.5 (2.1~14.0)と,OC投与によるVTEリスクはBMIの 上昇に伴い上昇することが明らかになっている

またまた難しいな……

がんばって資料を読むと、BMIが高いほど血栓症のリスクが高くなることがわかります。具体的には、BMIが25以上になると、血栓症のリスクがかなり高くなってくるので危険です。

その他にも、長時間の飛行機移動や高血圧なども血栓症の危険性を高めるので注意が必要です。家族に血栓症になった人がいる場合も、血栓症リスクが高くなる可能性があります。実際に病院では、高血圧の方や家族に血栓症になった人がいる場合、ピルは慎重に処方されることになっています。

喫煙と肥満は血栓症のリスクを高める2大危険因子!高血圧や家族に血栓症になった人がいる場合も注意が必要です。

血栓症になりやすいタイミングは?

ピルを飲んでいて、どういったタイミングが血栓症になりやすいのでしょうか。

飲み始めて最初の3ヶ月は血栓症になる確率が高い

ピルを飲み始めて最初の3ヶ月が、もっとも血栓症になる確率が高くなっています。ピルの服用も2年目になると、最初の3ヶ月に比べてリスクは半減します。ピルを飲んでいる期間が長くなれば、少しずつ血栓症のリスクは下がっていくのです。とはいえ、5年以上に渡ってピルを飲んでいても、ピルを飲んでいない人に比べればリスクは高い状態といえます。

ピル服用者1万人あたりの血栓症発症人数
ピル服用者1万人あたりの血栓症発症人数

ピルを長期間服用していても、ピルを周期どおり飲んでいないと血栓症のリスクが高くなります。ピルを中止して4週間以上経ってから再びピルを飲み始めた3ヵ月間は、血栓症のリスクが再び高くなります。

血栓症リスクと年齢の関係

年齢も血栓症のリスクに大きく関わっています。

ピルを飲んでいる10代後半の女性と30代前半の女性では、30代前半の女性のリスクが約3倍になります。さらに30代後半では約4倍、40代前半では約5.3倍、40代後半では約6.6倍と、年齢が増すに連れてリスクが高くなっていきます。

ピル服用者の年齢ごと血栓症リスクの推移
ピル服用者の年齢ごと血栓症リスクの推移

年齢が高くなるにつれて血栓症のリスクは高くなります。30歳を超えてからは、慎重に服用するようにしましょう。

ピルを飲みながら血栓症を予防するには?

血栓症のリスクが高くなるとはいえ、それ以上にピルは女性にとってさまざまなメリットがあります。ピルを安心して利用するために、日常生活で血栓症を予防すればよいのかをご紹介します。

水分補給と適度な運動

日常での血栓症予防としては、水分を適度に摂ること、適度な運動が大切です。

体の水分が足りなくなると、血がドロドロになって血流が悪くなります。紅茶やお酒などの利尿作用のある飲み物はほどほどにして、水をしっかりと飲みましょう。

また、同じ体勢をとり続けるのはよくありません。移動中や仕事中、同じ体勢で座ったままの状態が続くと血栓症のリスクが高まります。座りながらでも、足首を動かすなどの運動をしましょう。

おすすめは弾性ストッキング

気軽にできる血栓症予防として、足を圧迫して血流を良くする弾性ストッキングがおすすめです。

エコノミークラス症候群やむくみ取りに利用される医療用のストッキングなどが、3,000~4,000円ほどで購入できるのでおすすめです。日々着用すれば血栓症の予防効果が発揮されます。

納豆の血栓予防は医学的根拠なし

血栓症予防の食品として、納豆がよく取り上げられます。納豆に含まれるナットウキナーゼが血栓を溶かすという説があるからです。

実際には医学的な根拠がなく、ナットウキナーゼは医薬品としても使われていないものです。今のところ、血栓症予防としての大きな効果は期待できません。

血栓症になりやすいピルってある?

さまざまな種類があるピルの中でも、血栓症のリスクが比較的高いとされる種類があります。

マーベロンヤーズは第3世代・第4世代と呼ばれ、ピルの中でも新しく開発されたものです。これらのピルは、第1世代・第2世代のトリキュラーオーソと比べると、血栓症リスクが2倍との調査結果があります。

第3・第4世代経口避妊剤は、それまでの第1・第2世代避妊剤でみられた体重増加やにきびなどの副作用が少ないとして開発された薬剤である。しかし、頻度は少ないとはいえ静脈血栓リスクを2倍にすることが、WHO(世界保健機関)の疫学調査で示された。

どうして第3・第4世代のピルの方がリスクが高いのか、詳しい理由についてはまだ分かってないそうです。そもそも、あまり変わらないという意見もあるんだって。

ピルはそれぞれに特徴があるので、どのピルが優れているとはなかなか言い切れません。ピルを飲む本人の体質に合うものが1番です。どのピルを飲んでいても、普段よりも血栓症リスクが高くなっています。日々のケアで予防しましょう。

Dダイマー検査は効果的?

よくいわれるのが、血液検査のⅮダイマーを測定することです。これに関して日本産科婦人科学会では、Ⅾダイマー検査は血栓症の予知には効果的ではないとしています。

Dダイマーの結果が有用でない理由に、炎症や感染症、外傷などがある場合にも高い数値を示してしまう、という欠点があるからです。Ⅾダイマー検査で高い数値が出ても、必ずしも血栓症というわけではないのです。このことから、ピルを飲む前や飲んでいる間のⅮダイマー検査はあまり推奨されていません。

しかしすでに血栓の疑いがある場合は、症状を確認するのに有効な手段です。もし上で書いたような症状が出ている場合、Ⅾダイマー検査をしましょう。

Dダイマー検査の基準値と費用

Ⅾダイマー検査の基準値は、1.0㎍/㎖以下が正常値です。これより数値が高いと血栓症が疑われます。検査は多くの病院で受けられるので、普段通っている産婦人科や内科で受けるといいでしょう。Ⅾダイマー検査のみの費用は、保険適用で2,000円程度です。診察料なども加算されるので、病院によって費用は異なります。血栓症の症状が出ていなければ保険適用外なので、費用負担は大きくなります。

Ⅾダイマー検査以外で血栓症かどうかを確かめる方法もあります。エコーや造影検査を受ければ、ほぼ確実に血栓症を発見できるのです。詳しく検査したい場合は、血液検査だけではなくこの2つの検査を受けるといいでしょう。

まとめ

ピルを飲むことで血栓症のリスクは高くなります。しかし、血栓症になる確率は低いので、過剰に心配することはありません。日々の生活で予防し、血栓症のリスクが高くならないように意識しましょう。血栓症は治療すれば治ります。もし症状が出たときには、ピルを飲むのをやめて専門の病院へ行きましょう。

参考文献・参考サイト

ピルの副作用・血栓症の原因と対処法は、以下のサイトや資料を参考に作成しました。